Mountain-Times~うどんと登山日記~

猫(名称:うどん 種類:アメリカンカール)との日記と登山の記録です。

【登山本】井上 靖『氷壁』とナイロンザイル事件



 こんにちは。
 登山小説のジャンルでは、名高い『氷壁』を読みました。作者は、井上靖氏です。大河ドラマにもなった『風林火山』や中国が舞台の『敦煌』で有名です。『氷壁』は、ナイロンザイル事件と呼ばれる登山事故を題材にした小説です。

 この『氷壁』をナイロンザイル事件を振り返りつつご紹介します。

 

1.ナイロンザイル事件とは?

  ナイロンザイル事件は、ナイロン製のザイル(クライミング用ロープ)が日本国内で普及しだした昭和30年(1955年)に端を発し、とりあえずの解決を昭和43年(1973年)に向かえた事件です。足掛け18年かかっています。この事件の解決というのは、「消費生活用製品安全法」において世界で初めてナイロンザイルの安全基準が定められたことを指しています。

  先に結論を記載しましたが、そもそものスタートは何だったのでしょうか?スタートは、昭和30年に大学生3人が冬季に前穂高岳(北アルプス)の東壁をクライミング中にナイロンザイルが切れてしまい、一人が死亡した事件です。

  昭和30年は、ナイロンザイルが日本国内に普及しだしたばかりの時で、当時よく使用されていたマニラアサ製ロープより丈夫で軽いということが売り文句でした。しかし、ナイロンザイルは切れたのです。(当時としては切れたと疑われたとなります。)

  類似の事件もあったため社会問題となり、ナイロンザイルを作成したメーカーを巻き込み再現実験するに至りました。しかし、再現しませんでした。結果、事故にあったメンバーは、自分たちのミスをナイロンザイルの品質のせいにしたと糾弾されてしまいます。ひどいのが実はこの実験メーカー側がインチキをしていました。ザイルに触れる岩の角を2ミリほど丸めていたのです。

 しかし、一般にはインチキな実験結果が公表されます。結果、先にのべたように被害者は糾弾されます。それでも、あきらめず自身の主張をまとめた冊子『ナイロン・ザイル事件』を山岳関係者へ送付します。この冊子が井上靖の目にとまり『氷壁』が執筆されることになります。

 その後、被害者たちの祈りが形となり昭和30年(1955年)に「消費生活用製品安全法」が制定され、その中でナイロンザイルの安全基準が定めらました。

  この事件は後日談があります。嘘の実験をしてそれを公表した人が日本山岳会名誉会員になったことに際して一悶着あったそうです。

 

2.小説 『氷壁』とは

(1) 概要

     小説『氷壁』のあらすじは以下です。 

  新鋭登山家の魚津恭太は、昭和30年の年末から翌年正月にかけて、親友の小坂乙彦と共に前穂高東壁の冬季初登頂の計画を立てる。その山行の直前、魚津は小坂の思いがけない秘密を知る。小坂は、人妻の八代美那子とふとしたきっかけから一夜を過ごし、その後も横恋慕を続けて、美那子を困惑させているというのだ。

 不安定な心理状態の小坂に一抹の不安を抱きつつも、魚津達は穂高の氷壁にとりつく。吹雪に見舞われる厳しい登攀のなか、頂上の直前で小坂が滑落。深い谷底へ消えていった。二人を結んでいたナイロンザイルが切れたのだ。必死に捜索するも小坂は見つからず、捜索は雪解け後に持ち越されることになった。

 失意のうちに帰京する魚津。そんな思いとは裏腹に、世間では「ナイロンザイルは果たして切れたか」と波紋を呼んでいた。切れるはずのないザイル。魚津はその渦に巻き込まれていく。ナイロンザイルの製造元は、魚津の勤務する会社と資金関係があり、さらにその原糸を供給した会社の専務は、小坂が思いを寄せていた美那子の夫・八代教之助だった。(Wikipediaより)

 

(2) 史実との違い

 小説『氷壁』は、題材こそナイロンザイル事件をあげていますが、関係する人物は全く違います。例えば史実は大学生の登山者(被害者)ですが、小説では会社員が登山者となっています。また小説ならでの人間模様として、登山者以外の人物が出ており恋愛模様もあります。人間関係もコンパクトになるように補正されています。そのため、『氷壁』は史実とは大分違う様相となっています。

 また一つのポイントして『氷壁』は、事件の解決(法律制定)までは語っていません。公開実験に対して被害者が異を唱えたところまでで話は終わっています。そのため、内容は、メーカーと被害者の結果双方が立つような記載となっています。小説とはいえ人気作家の作品だけに気を使ったところでしょう。

 

(3) 感想

 史実との整合性はともかく登山小説というか一般小説として純粋に面白いです。登山というチャレンジングな行為に事件性、目の当たりにしたことを信じる主人公と非情な実験結果、さらにヒロイン達の関係。構成がしっかりしており、あっと言う間に読んでしまう作品です。登山小説というより群像劇的な小説な印象です。

 

 登山趣味人として思うのは、昭和30年で冬の穂高登るのかです。当時は今ほど交通の便もよくなければ、装備もよくないです。その中で登るのかすげーーというのが端的な感想です。小説と言えど事実がベースのため、強く思いました。私はセーターで冬穂高登るのは無理です。あと休みとかの給料の前借りとかもろもろ勤務もおおらかな時代だったと感じました。主人公は登山のために欠勤しまくってます。

 ラストは登山小説らしい終わり方ですが、とても綺麗に終わっています。しっくり終わりかたと言えます。

   登山小説と思わず、エンタメ小説と思ってぜひ読んで頂きたいです。